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【解説】これだけでほぼ分かる!イギリスのEU離脱の影響をまとめてみた

BREXIT or BREMAIN

イギリスの国民投票EU離脱派が過半数を占め勝利しました。これにより、イギリスはEU離脱に向けた準備期間へと移行することになります。ニュースでも大々的に報道されていますが、イギリスがEUを離脱すると言われてもよくわからないという人のためにイギリスのEU離脱問題についてわかりやすく解説していくよ!

ポンドが歴史的な大暴落、金融市場がパニック状態に

まず国民投票が実施された日に起きたことを振り返っていきましょう。世界中が注目する中、開票結果はリアルタイムで配信されました。当初はEU残留派の勝利が濃厚と思われましたが、開票が進んでいくにつれて離脱派が優勢となっていき、日本時間24日の正午には離脱派勝利が確実なムードとなり、そのまま離脱派が勝利する展開となりました。

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 EU離脱派の優勢が報じられるとイギリスの通貨であるポンドが急落しました。離脱派の勝利が確実とBBCが報道すると金融市場はまさにパニック状態となりました。残留派勝利を見込んでポンドを買っていたトレーダーたちがポンドを投げ売りしたことに加え、ヘッジファンドなどの投機筋がポンド売りを加速させたため、市場ではポンド売りが殺到することになりました。

その結果、ポンドは30年ぶり安値まで暴落、ポンド円は一時的に一日で27円下落するなど為替市場は大荒れの展開となりました。ポンド円は元々値動きが激しい通貨ぺアとして知られていて、1日で2~3円は動きます。2~3円でもかなり値動きが激しいのですが、その約10倍も動いたのですから、いかに大荒れとなったかがわかります。

ポンド円 日足

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為替市場大荒れで破産者が続出?

24日に為替トレードをした人の中には大損した人たちが続出したものと思われます。ここまで値動きが荒いと、一つの判断ミスが致命傷となってしまいます。また、今回のような大相場の時にはスプレッド(取引コスト)が急拡大し、普段の数十倍になることもあるため不利な状況になりやすいのです。

案の定、ネットでは今回のポンド急落で大損した人たちのことが話題となっています。大相場ではうまくいけば大もうけできますが、個人的な感覚としては大儲けする人よりも大損する人のほうが多いように思います。相場が乱高下するため、たとえ正しい方向に賭けていたとしても途中の戻しで強制決済されてしまうこともあるからです。

 急激な円高が進行、日経平均は暴落

為替市場ではポンドが急落する一方、急激な円高が進行しました。一般的に、円は逃避通貨と言われています。逃避通貨とは、今回のように市場が不安定(リスクが高まっている)な時に避難先とした買われる通貨のことです。意外ですが、日本円は世界の通貨の中でも安全と思われているのです。

ドル円 1時間足

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急激な円高を受けて、日本の株式市場は約16年ぶりの規模の暴落となり、年初来安値に沈むことになりました。日本の株価はもちろん、世界中の株式市場も急落し、この日だけで世界の株式市場から215兆円が失われました。まさに、世界の金融市場はパニック状態となりました。

EU離脱の影響1:連合王国崩壊の危機が再燃

今回の国民投票ではEU離脱派が勝利しましたが、決して満場一致で離脱が決定したわけではありません。イギリス国内でも離脱派と残留派が激しく対立しており、それは国民投票後でも変わっていません。まずはこちらのマップを見てみましょう。

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出所:BBC

こちらは国民投票の結果を地域ごとに示したマップです。黄色が残留派が勝利した地域、青が離脱派が勝利した地域です。イギリス北部のスコットランドは黄色一色(残留)な一方、イギリス南部は青(離脱)がほとんどを占めるという状態になっています。これがいまイギリス国内で新たな火種になりつつあります。

元々スコットランドは2014年にイギリスからの独立を問う住民投票を実施するほど独立意識が強い地域です。2014年の住民投票ではイギリスからの独立は否決されましたが、今回の国民投票EU離脱派が勝利したことで、残留派が多数を占めるスコットランド内では独立を問う住民投票を再度実施する動きが出てきています。

スコットランドだけではなく、残留派が勝利したロンドンでもロンドン市の独立を求める動きが出てきています。既にロンドンの独立を求める署名に数万人が署名したり、カーン市長が独立を匂わせる発言をするなど、影響が広がりつつあります。

なぜロンドンはEU残留にこだわるのでしょうか。ロンドンは世界の金融の中心地としての地位を不動のものにしてきました。しかし、イギリスがEUから離脱するとなれば巨大市場であるEUへの自由なアクセスが難しくなるため、金融の中心地としてのロンドンは没落してしまう可能性もあります。また、各金融機関は以前からEU離脱となれば拠点の移転や人員整理を行う可能性が高いと表明しており、ロンドンでは金融業界を中心に失業者の増加が予想されています。

EU離脱の影響2:ドミノ離脱によるEU崩壊の危機

元々、EU加盟国内でも反EUを掲げる人たちはいました。最近は難民問題をきっかけにEUに対する不満が高まってきており、こうした反EU派の勢力が拡大してきましたが、今回のイギリスのEU離脱を受けて反EU派が更に勢いづく可能性があります。既に一部の加盟国では自国でもEU離脱を問う国民投票を呼び掛ける運動が始まっており、ドイツなどEUの主要国では連鎖(ドミノ)離脱に警戒感を強めています。イギリスの後に続いて離脱する加盟国が出てくれば、EUが崩壊することにもなりかねないからです。

二度の世界大戦を経て、ようやく成し遂げた欧州統一体であるEUの崩壊は経済・政治面で大打撃になります。今回のイギリスのEU離脱はそのトリガーになる可能性があります。

EU離脱の影響3:世界経済への打撃

 イギリスのEU離脱で最も心配されるのがイギリス経済をはじめとした世界経済への影響です。イギリスがEUを離脱するとイギリスのGDPが最大4%押し下げられるという試算もあり、経済への影響が懸念されています。これは何もイギリスだけに限った話ではなく、EU全体、そして日本への影響も当然あります。イギリスのEU離脱が世界的な景気後退を引き起こしかねない事態となっています。

企業の欧州戦略見直しでイギリスへの投資が減少

ヨーロッパ市場の足掛かりとしてイギリスには多くの企業が欧州本社や生産工場を置いています。日立や日産など日本メーカーもイギリスに生産工場を持っており、現地に雇用を生み出しています。しかし、イギリスがEUから離脱することになれば、EU市場へのアクセスというメリットが失われかねず、日本企業も含め各社は欧州戦略の見直しを迫られることになります。

欧州戦略の見直しでイギリスへの投資が削減されれば、イギリス国内工場の閉鎖などで失業者が増えることが予想され、イギリス経済にとっても悪影響となります。

貿易の停滞による悪影響

EU内ではモノに関税もなく、パスポート不要で人の行き来もできます。このスムーズな貿易システムがEUの大きな特徴であり、経済的なメリットも非常に大きなものでした。しかし、イギリスがEUから離脱するとなれば、イギリスはこの貿易システムからも脱退することになります。モノやヒトの移動が制限されれば貿易が停滞し、経済に悪影響が及ぶ可能性があります。

仮にこのままイギリスがEUから脱退し場合、イギリスはEUと新たに貿易協定を結ぶことになります。内容がどんなものになるかはわかりませんが、イギリスがEUに加盟していた時のような条件をEU側が飲むとは考えにくいでしょう。難民は受け入れない、ただし貿易は今まで通りやらせろというのでは筋が通りません。もしそのような条件を受け入れてしまえば、他にもEUを脱退する国が出てきてもおかしくはありません。

貿易が停滞してしまえば、イギリスと貿易をしている多くの国にも影響が及びます。たとえばEUの盟主たるドイツにとってもイギリスは重要な貿易相手国であり、イギリスとの貿易が減少すればドイツ経済にとってもマイナスとなります。

 日本経済への影響も深刻

イギリスのEU離脱が日本にどれくらい影響を及ぼすのかという試算はいくつかありますが、日本のGDPを年間で1%程度押し下げる可能性もあり、景気停滞に陥っている日本にとってはかなり大きな打撃となる可能性があります。

特に、急激な円高が進行したしため、日本の輸出企業の業績には相当な悪影響が出ると思われます。業績が悪化すれば当然リストラや給与の減少も考えられますし、採用にも影響が出てきます。新卒採用市場ではここ数年売り手市場の状態が続いていましたが、18卒の就活生にとっては冬の時代となるかもしれません。

また、円高は株価にとってもマイナス材料となりやすく、株価が更に下落すれば消費の冷え込みにもつながる可能性があり、悪材料の連鎖反応となります。

これからどうなるのか、今後の動きのまとめ

国民投票EU離脱派が勝利したことで、イギリスがEU離脱に向けた動き出しましたが、今後の動きについて簡単にまとめました。

国民投票が最終決定ではない

国民投票ではEU離脱派が勝利しましたが、この国民投票が最終決定というわけではありません。というのも、イギリスでは国民投票に法的拘束力がないからです。そのため、EU残留の可能性は一応まだ残っています。しかし、国民投票の結果はやはり重く受け止められるため、現時点ではEU離脱の可能性が高いです。

ただ、すでにイギリスでは国民投票の再実施を求める声や独立の動きが出ているなどまさに混乱状態です。EU離脱も一筋縄ではいかず、最終的には残留に傾く可能性もあります。残留を主張してきたキャメロン首相が辞任を表明するなど政局も混乱しており、今後どうなるかはまだ不透明な状態です。

離脱なら移行期間は2年

 イギリスがEUから離脱するといっても、すぐに離脱するわけではありません。2年間の移行期間を経てから正式にEUを離脱することになります。

この移行期間内に新たな協定などを締結するわけですが、もし交渉で合意できずに新協定が締結できない場合、イギリスはEU内での金融免許などの権利を失うことになります。こうした背景もあり、イギリスの金融機関の株価は暴落しました。この移行期間内にどのような協定を結べるのかがその後のイギリス経済のカギとなりそうです。

金融市場への対応

今回のイギリスのEU離脱を受けて、金融市場は激しく動揺しました。世界の金融当局はこの事態に対応するため市場に資金を供給して流動性を確保するなど相次いで声明を発表しています。また、EU離脱を受けてアメリカの利上げにも影響がでる可能性があります。

いずれにせよ、今回のEU離脱は金融市場にとっては非常にマイナス効果となる公算が高く、市場がより一層不安定になる可能性があります。こうした金融市場の不安定化に金融当局がどう対応していくのかも重要なポイントとなりそうです。

イギリスのEU離脱は世界史の転換点になりうる

今回はイギリスのEU離脱について簡単にまとめてみました。イギリスのEU離脱はイギリスだけの問題ではなく、世界レベルの混乱に発展しています。もしこのまま離脱することになれば、今後の世界史が大きく変わる可能性もあります。

金融市場は激しく動揺し、大損する人が続出しました。既に一部加盟国内でも国民投票の実施を呼びかける声が上がり、イギリス国内では独立の動きがでてきました。今後も世界の株価が急落したり、企業業績が急速に悪化する可能性もあります。まさにカオスな状況となっています。

これは遠いヨーロッパだけの問題ではなく、私たちの生活にも影響を及ぼす重大なニュースです。イギリスのEU離脱についてのニュースもぜひチェックしてみてください。

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